米国のリハビリテーション法に関する連邦規則の改正について         
・はじめに
 米国の職業リハビリテーションについて定めたリハビリテーション法(the Rehabilitation Act of 1973, as amended)に関する施行規則である連邦規則(federal regulation)が改正された。その詳細が2000年1月17日と22日の2回にわけて「官報」(Federal Register)に掲載されたので、主な改正点を紹介したい。
 今回の連邦規則の改正は1998年のリハビリテーション法改正の内容を実施するために行われたものである。1998年のリハビリテーション法改正は、わが国の法制度にはみられない手法であるが、1998年8月7日に制定された労働力基盤整備法ともよぶべきWorkforce Investment Act(公法105-220、略称WIA)の第W章として定められている。そのため、今回の連邦規則改正はWIA制定の趣旨をも反映した内容となっている。
 1998年のリハビリテーション法改正に対しては、すでに同法にもとづく連邦規則の改正案公告(Notice of Proposed Rule Making、略称NPRM)が2000年の2月28日に示されていた。また、これとは別に2000年6月26日にもうひとつのNPRMが公表されていたが、今回の改正は、これらの改正案に対する様々な意見を受けて再検討を加えた結果もたらされたものである。
・雇用達成の条件について
 今回の連邦規則改正で最も大きな注目を集めているのは、職業リハビリテーションの最終段階である「雇用達成(employment outcome)」の定義が、障害のない者とわけへだてのない「統合された職場(integrated settings)」のもとでの就労へと限定されたことである。
 米国の職業リハビリテーションのプロセスはインテークからこの雇用達成までを26の段階にわけており、雇用達成とみなされると当該ケースが終了(closure)したとされる。通常は、一般雇用、援助付き雇用、自営業、専業主婦などへの移行をもって雇用達成とみなされる(障害者だけの特別なものではないという理由で、給与をともなわない家事労働や専業主婦も雇用達成とみなされる)。
 従来は、障害者が職業リハビリテーションの過程を経て、わが国の授産施設や福祉工場に相当するシェルタード・ワークショップへと移行することは「準雇用(extended employment)」という概念にあたるものとして雇用達成とみなされていた。しかし、今回の改正により、シェルタード・ワークショップへの移行は今後は雇用達成とはみなされないことになった。
 最終的な雇用のあっせん先が、官公需の優先発注制度であるジャヴィッツ・ワグナー・オデイ法(Javits-Wagner-O'Day Act、略称JWOA)に基づく就労である場合も、シェルタード・ワークショップへの移行と同様に従来であれば自動的に雇用達成とされていた。しかし、今後は、JWOAによる就労であっても自動的に雇用達成とみなされることはなく、障害のない人が同種の仕事についた場合と同様に障害のない人との接触が保たれており、かつ最低賃金以上が支払われているか否かによりケースバイケースで雇用達成か否かが判断されることになる。
 こうした定義の変更はシェルタード・ワークショップの存在意義を否定しようとするものでは決してない。職業リハビリテーションという枠の中においては、従来はそのゴールのひとつとみなされていたシェルタード・ワークショップの位置付けをゴールにむかってのひとつの段階とみなすことにしたということである。つまり、シェルタード・ワークショップというのは法律的には現在もemploymentのひとつの形態として位置付けられているのである(ただし、このemploymentという言葉が意味するものは厳密にはわが国の雇用という言葉とは一致しておらず、いわゆる福祉的就労をも含んだ幅広いものになっていることに注意しておく必要がある)。
 そのため、今後も雇用達成への過程の評価や訓練の場所としてシェルタード・ワークショップは活用されることになる。さらには、職業リハビリテーションの過程で、職業リハビリテーション・サービスの利用者自身が十分な情報提供が行われたうえでなお長期就労の場としてシェルタード・ワークショップを希望した場合には、それを所管する機関への紹介が職業リハビリテーション機関によって行われることになる。
 今回の改正に対しては、当初からシェルタード・ワークショップへの移行が適切であると予測されるような重度障害者に対して職業リハビリテーション・サービス提供の門戸をとざすことにつながるのではないかとの批判的な意見もある。しかし、重度障害者に対するサービス提供を最優先させることは法の趣旨そのものであるうえに、障害が重度であるためにサービス提供を行わないと決定するためには、当の重度障害者が雇用達成によっては利益を得ることができないということを職業リハビリテーション機関自身が証明するという困難な課題にこたえる必要がある。
 従来より、雇用達成の一部に、障害のない者との統合が果たされていないシェルタード・ワークショップへの移行が含まれていることに対しては米国の関係者から批判の声があがっていた。今回の改正は、こうした関係者の批判に応えたものであると同時に、障害者の社会への統合に最重点をおくという1998年改正リハビリテーション法の基本的な考え方にそったものである。
 ここに紹介した内容については2001年1月22日付けの連邦規則改正で詳しく述べられており、同規則の発効は2002年会計年度が開始される2001年10月1日とされている。この連邦規則改正を同年1月17日付けで発表されたリハビリテーション法の他の部分に関する連邦規則改正とは別に独立した形で発表し、改正から発効までに半年以上の猶予をおいたのは、予算との関係もさることながら本改正の重要性ゆえに関係者に対してその内容を周知徹底させるための時間的配慮を行った結果である。
・援助付き雇用について
 援助付き雇用は、いうまでもなく、@一般雇用(competitive employment)、A障害のない人とわけへだてのない統合された職場環境(integrated settings)およびB継続的援助(ongoing support)という3つを要件としている。そして、一般雇用は最低賃金以上の支払いをその内容のひとつとしているが、1998年のリハビリテーション法において、「一般雇用に近づきつつある(working toward competitive employment)」場合、つまり最低賃金以下の状態であっても最低賃金にむかいつつあるという場合も援助付き雇用として拡大解釈されることになった。
 職業リハビリテーション機関は、援助付き雇用に対して他の職業リハビリテーション・サービス同様に原則として最長18ケ月間しかサービス提供を行わないのであるが、今回の連邦規則改正で議論になったのは、援助付き雇用のもとで「一般雇用に近づきつつある」期間がこの18ケ月に含まれるか否かということであった。
 結論は、いかなる場合も職業リハビリテーション機関は18ケ月間しかサービス提供を行わないというものである。援助付き雇用のサービスを提供し始めてから18ケ月を経過した後は、最低賃金を実現しているか否かにかかわらず、サービスの提供はうちきられる。その後は、発達障害者に対する公的サービス提供機関や民間の非営利団体が運営するサービス提供機関など職業リハビリテーション機関以外の機関からサービス提供を受けることになる。
 職業リハビリテーションの過程を終え援助付き雇用へ移行した場合は、当然、雇用達成とみなされる。しかし、それが「一般雇用に近づきつつある」いいかえれば最低賃金以下の状態である場合は、たとえ援助付き雇用のもとにあっても雇用達成を果たしたとはみなされないことになる。
・その他
 移行サービスについて、改正された連邦規則では、学校を卒業した者に対して職業リハビリテーション・サービスが必要と思われる場合に備えて、そのサービスの内容、受給要件、手続きなどについての情報提供を行うことが定められている。また、その時期については、対象者がインフォームド・チョイス(情報提供を与えられたうえでの選択) ができるように、卒業前の可能な限り早い時期とすることも定められている。
 さらには、職業リハビリテーション機関が卒業間際になって移行計画に関わるだけでなく、その策定過程に実際に参加することをが重要であるとして、個別雇用計画(Individualized Plan for Employment、略称IPE、旧称IWRP)は卒業以前のそれも可能な限り早い時期に策定することも定められている。
 職業リハビリテーション機関は雇用の可能性のない重度の障害者を最終的にはそのサービス対象から除外することが可能であるが、前述したように、その決定のためには雇用達成によって利用者の利益を得ることができないことを証明する必要がある。また、今回の改正では、その決定を書類上の審査だけで行ってはならず、実際の職場における試験的就労経験(trial work experience) を実施することを義務づけた。
 WIAでは、関連するサービスについて統合してひとつの窓口で対応できるようにすることを求めており、これをサービス一括提供システム(One-Stop service delivery system)と称している。この考えを受けて、各州の公的職業リハビリテーション機関が、職業的リハビリテーションのサービス一括提供窓口として機能することが定められている。
 なお、連邦規則の本文については、ウェッブ上の検索エンジンでFederal Registerを呼び出し、公表の日付を入力することで容易に閲覧、ダウンロードすることができる。
                         (エンパワメント研究所・久保耕造)